DMBOKガイド第1版ではデータモデリングは「データ開発」の一部でしたが、第2版では新たに「データモデリングとデザイン」という章が設けられました。
果たして、日本の企業での中でどれ位、データモデリングが行われているでしょうか?残念ながら、あまり多くないというのが私の印象です。或いは、データベース設計のためにのみ使われ、開発後に維持されていないことが多いとも思います。あるSIerの中では、「最近は全く新規でのシステム開発ということが殆どないので、データモデリングを習っても実践する場がなくなった」と言われていました。
新規のデータベース設計がなくても、業務分析しかり、現行システムのデータ構造の逆解析など色々と用途があるのに勿体ない話です。
例の「2025年の崖」への対策としてレガシーからの脱却を図るということであれば、先ずはデータモデリングを用いた分析から取り掛かってはいかがでしょうか。
私は受託開発を行う際の分析と、その開発のための方法を探っていた中でデータモデリングに辿り着いたので、その視点からデータマネジメントにおけるデータモデリングについて少し考察してみます。
データマネジメントにどこから手を付けるか?
データマネジメントはDMBOKガイドの目次を見てもわかる通り、非常に多岐に渡る活動やスキルから成っています。データマネジメントに取り組むきっかけも色々でしょうし、これまでの環境や現在の要求事項に応えるために取り組みの優先順位が決まることもあるでしょう。それでも敢えて取り組みのための順序を考えるならば、次のようではないかと私は考えます。
最初に必要なことは、実際の活動母体となる組織作りでしょう。本格的な専任の部署でも、ワーキンググループのようなものでも構いませんが、業務とITの両方の視点が必要なので、一人きりで始めるより、できれば数人で始めたいです。例えば利活用のためのPoCに向けて作られたWGとかでも良いです。そして、更に可能であれば経営者のコミットメントが欲しいところです。
次に取り組むのにはデータモデリングが良いのでは考えています。データをマネジメントすると言うのだから、そのデータがどんな構造をしていて、何処にあるのかが明らかになっている必要があります。
データモデリングとデータカタログ作成
どんなデータが何処にあり、どういった関係かを明らかにするための手段には、次のものがあります。一つには、データモデリングを行い、業務に必要なデータ、あるいは現在運用されているデータとその関係を明らかにしていく方法です。
それだけでは、実際のシステムにて、何処にそのデータが存在するのかわかりません。そのためには、ツールの力を使ってデータカタログ作成を行うことと、その過程で実際に格納されているデータのプロファイリングを行うことが必要です 。
順序については、置かれている環境(人のスキルも含めて)によって異なりますが、可能であれば、1)データモデリングにより業務におけるデータ構造をあきらかにする。2)プロファイリングを伴ったデータカタログ作成を行う。といった順で進めることが良いと思います。
データモデリングは飛ばしてデータカタログだけ作るのではダメか?という方もあるでしょう。データカタログ作成により、存在する項目は明らかになり、似通った項目の統合もある程度進めることができると思います。
しかしながら、データ項目間の関係を明らかにすることは難しいです。また、実装の都合が強く反映されている場合もあります。たとえ参照整合性制約があっても、その関係をパッと目で見て取ることができません。開発時に、表形式のデータベース設計書のみを作れば良いか、データモデルを書くべきなのかということも議論されますが、データモデルを書く方が良いと考えます 。
データカタログ作成より、できればデータモデリングを先に行うことをお薦めします。メタデータを明らかしていく上で、項目の名称以外に意味を定義する必要がありますが、それには関係を問いながら掘り下げていくことができるデータモデリングが有効です。もちろん、事情によってはともかく現状のデータの在り方を明らかにするために、ツールによってデータカタログを作成し、その後に解析を行うために部分的にデータモデリングを併用するという方法もあります。そのためには、いずれにせよデータモデリングを実践できるスキルを持った人が必要になります。
データモデリングは誤解されていることが多く、RDBの項目定義と同等のものを 単に箱と線で書かれたER図を作っていくことがデータモデリングだと思われていて、IE法やIDEF1Xなどの表記ばかりが取り沙汰されます。しかしながら、そこにはビジネスを解析するための方法論があります。
データベース設計を目指すだけでなくデータを起点にビジネスを解析することができます。ある企業にて作成支援をし、作成したモデルを別のモデラーたちが初見でどれ位に現状のビジネス課題を出せるかという実験をしたところ、依頼した企業の業務側の人が驚くほど正確に課題が出されてきました。モデル上でモデラーにとって気持ち悪い記述のところには、何らかの無理がかかっていることが読み取れるというだけのことですが、モデリングの威力を知って貰うには良い機会でした。
それが可能なように、あるビジネスをなるべく同じ視点で解析し、同じモデルが書けるようになるための方法論が必要です。
ここで一つだけ、私のお気に入りのモデリング手法を紹介しておきます。佐藤正美さんが考案したTMと呼ばれる手法です(私は「T之字」と読んでいます)。
もちろん、 企業によって事情が大きく異なると思います。データカタログを作る中で殆ど意味の定義も問題なくできる企業もあれば、データプロファイリングも並行しないと意味がとれないような場合もあります。また、モデリングを先行させ、データカタログを作りながらプロファイリングを進める方が良いという企業が多いのではないでしょうか。いずれにせよ、有意義なモデルを作れるデータモデラーを確保できているか、という点が課題になります 。
私の次回分では、データモデラーのお噺にしようかと思います。
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