2025年10月23日に開催された第14分科会の第5回勉強会では、「データモデリング」をテーマに、ビジネスエンジニアリング株式会社の矢谷恵明さんが登壇されました。DMBOKの中でも、言葉としてはよく知られている一方で、実務の中でどう向き合えばよいのか悩みやすい領域です。今回は、矢谷さんがこれまでの経験や学習をもとにモデリングについて整理された内容を共有いただき、参加者全体で「モデルを描くとは何か」を考える時間となりました。
モデリング研修で感じた“モヤモヤ”から出発して
冒頭では、矢谷さんがモデリング研修を受講した際に感じた“モヤモヤ”が紹介されました。「提示された複数のモデルがどれも“正解”とされるが、それでは判断基準がわからない」「どんなモデルを描いても、理由をつければ正解になってしまうのではないか」—— こうした違和感が、今回の発表テーマの起点となったことが共有されました。このモヤモヤから出発し、「なぜ正解が複数あるのか」「何をもとに考えるべきなのか」という問いが発表全体を通してのテーマとなっていきました。

モデルの「正しさ」をどう考えるか
「正解が複数ある」とされる理由について、矢谷さんはモデルの評価軸を3つに分類して説明しました。
- 文法的な正しさ:ER図として成立しているかどうか(記法・構文の整合性など)
- 意味的な正しさ:業務上のルールや制約に合っているか(NULLやユニークキーなど)
- 文脈的な正しさ:モデルの目的や利用場面に合っているか(誰に対して、何のために作るのか)
これらの視点が共有されることで、「正解が複数ある」ことへの理解が進みました。
重要なのは、単に図として“正しい”だけでなく、「どんな前提で、誰に向けて、何の目的で描いたモデルか」を踏まえて評価するという考え方です。発表後の質疑応答では、実務に即した視点から多くの問いが投げかけられ、参加者間での議論が深まりました。

データモデリングの基本構成と、業務から導かれる構造のパターン
中盤では、DMBOK第5章に記載された「データモデリング」の定義を起点としつつ、エンティティやリレーションシップといった「データモデリングの基本構成」が紹介されました。その後、矢谷さんがこれまでの実務経験の中で出会ってきた代表的なデータモデル構造パターンへと展開されました。たとえば、以下のようなデータ構造紹介されました。
- サブタイプを用いた部分集合の表現
- ヘッダと明細を分けるパターンと、その主キー設計の考え方
- 自己参照による階層構造の表現(例:部門の親子関係)
- 有効期間を持つデータの管理や、履歴保持の設計
各構造について、図を交えながら、「なぜこの形にするのか」「他にどのような選択肢があるか」といった観点で解説が行われました。単に型を覚えるのではなく、選択肢と理由をセットで整理することの重要性が語られました。

モデリングを進めるうえで意識したい4つの視点
発表の後半では、モデリングを行う際にあらかじめ明確にしておくべき視点として、以下の4点が紹介されました。
- 目的:業務理解のためか、設計か、分析か
- 抽象度:概念モデル/論理モデル/物理モデル
- 時間軸:As-IsかTo-Beか
- アプローチ:トップダウンかボトムアップか
これらの視点を整理することで、レビュー時のすれ違いや期待値のズレを防ぐことができるとの指摘がありました。

質疑応答から見えた論点
質疑応答では、教育やレビューの現場での悩みや、モデリングを学ぶ際のつまずきに関する問いが多く寄せられました。
- 「どれも正解」と言われたとき、どう受け止めるべきか?
「講師に“どれも正解”と言われると、何を根拠に判断すればよいのか分からない」という声がありました。これに対して、「正解が複数あるのは前提として、その設計が何を目的に、どんな制約条件で作られたのかを言語化できることが大切」との意見が共有されました。 - モデルの“背景”を共有しないと議論が噛み合わない
ある参加者からは、「モデル図だけが共有され、目的や前提が伝えられないと、レビュー時に“何を見ればよいか分からない”という事態になる」との指摘がありました。こうしたケースでは、「このモデルはAs-IsかTo-Beか」「業務理解が目的か設計か」といった情報があらかじめ整理されていると、議論が噛み合いやすいという意見が共有されました。
おわりに
今回の勉強会では、矢谷さんがこれまでの経験や理解をもとに、モデリングの考え方や悩ましさを丁寧に整理し、言葉にして共有してくださいました。正解が一つに定まらないからこそ、「何を目的に、どういう前提で描いたモデルなのか」を伝える視点が重要であることが参加者全体で再確認され、実務や教育にもつながる示唆に富んだ内容となりました。
次回の第6期Day6では、実際の業務要件を題材にしたリアルタイムモデリング演習を予定しています。今回の学びを足場に、より実践的な理解を深めていく場となりそうです。
※スライドの掲載については、発表者ご本人の了承を得ております。

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