デジタル庁の事業所ベース・レジストリ整備の中断について

デジタル庁については,期待もあり,また,人材募集や組織図を見ていて,不安も覚えるというのが正直なところである。今回は,かつての特許庁のような大惨事に陥ることなく仕切り直しとなったことは評価する向きもあるが,それでも,中断に至った原因を分析し,その対応策が取れなければ再び失敗を繰り返すことになる。

公開された情報からは,事業所の定義ができないが,それだけではないといった曖昧な情報であったが,今は少し落ち着いて原因分析した日経XTECHの記事も出てきた。

事業所データ整備を中断したデジタル庁、「撤退」の次こそDX司令塔の真価が決まる

事業所データ整備を中断したデジタル庁、「撤退」の次こそDX司令塔の真価が決まる
 デジタル庁が注力分野の1つとして取り組んでいる、法人や国土など日本の公的基礎情報をデータベース化する「ベース・レジストリ」事業。このうち事業所のデータを整備する事業の中断を決め、デジタル庁は2022年3月下旬から順次、調達の取りやめを告示した。

この記事では,事業中断の原因として,事業所という言葉の概念が複雑かつ多岐にわたり,また,監督官庁も異なることをあげている。これは実際,その通りだろう。なので,そもそも事業所は何を指す概念かを定義しないといけない。

日経XTECHの記事では,ユースケースを限定し,目的を絞ってデータ整備したらどうかとあるが,これを安易にやってしまうと,また,新たな標準が1つ増え,データの体系化がさらに困難になるだろう。データを目的別に整理するのはデータモデルのアンチパターンである。全体を捉えたうえで,部分を定義しないとデータは体系化されない。全体は部分の寄せ集めではない。ユースケースで検証することは最低限必要なことだが,選択したユースケースが全体の構造を決めるうえで適切である保証はない。日経XTECHの記事は(日経さんなので期待も込めて書くが),掘り下げが浅すぎる。

では,これはどのように進められてきたのだろうか。ネットで検索すると,「ベース・レジストリの 検討状況について」という資料が公開されていた。

https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/society5.0/pdf/211020_04.pdf

一般論としては良く書かれているが,気になったのは最後のページである。

2021年度に「調査研究・パイロット」,「首都圏等自治体と共働」とあるが,TOBEデータモデルを検討しているようには読み取れない。「調査研究・パイロット」で検討しているのかもしれないが,パイロットという単語からは,プロトタイプ・システムで検証するといったことを想定しているようにも見受けられる。

日経XTECHの記事では,多岐にわたる事業所,それを管轄するそれぞれの官庁,自治体ごとの違いが挙げられているので,まずは法人と紐づけし,事業所を整理構造化し(サブタイプ化),ステークホルダーを整理し,場合によっては,その官庁権限を変更し(これができないとデジタル庁は,単なるボトムアップ方式しかできなくなる,ただ,このもとになるのはTOBEデータモデルがあってこそ),TOBE/ASIS変換の仕組みを作成しないと,再び,同じ轍を踏むことになる。 実際のところは,さらにドロドロとした状況であるのかもしれないが,日本が前に進むためには乗り越えなくといけない道である。また、次回は,優秀なデータモデラー,データアーキテクトを,RFP以前に参画させることを願っています 。

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